UCHEW-NISSHI

Tokyo Based DJ KNK's Blog - 音楽関連、東京近辺のパーティ情報、各地の旅先での音楽に関連した散策、読んだ本や見た映画について

史上、最も美しい犯罪ーMan On Wire

1974年。完成直後のツインタワー(世界貿易センタービル)を舞台に「史上、最も美しい犯罪」が実行された。それは死と隣り合わせの行為で、どうしようもなく意味のない行為。男は二つのタワー頂上をワイヤーで結び、その上で白昼堂々綱渡りを実行した。

伝説の大道芸人フィリップ・ブティが1974年8月7日に決行したこの一大エンターテイメントは、またたく間に人々に知れ渡り、彼を時の人にした。ショーの終了とともに逮捕されたフィリップに人々が口々に聞いたのは、なぜそんなことをしたのか?という問いだった。
この映画は、犯罪の一部始終を追いつつ彼がそうするに至った経緯を丹念に綴ったドキュメンタリー映画である。数々の記録映像とともに語られる彼の半生は奇想天外で、それだけで物語として成立している。何よりパリやシドニーで彼がWTC以前に実施した綱渡りの映像は、WTCのそれよりもある意味芸術的で美しい。(それは高みに上ると常人にはその素晴らしさを視ることができなくなるということの比喩かもしれない)

全体的には犯罪の一部始終を追ったドキュメンタリーであり、サスペンス調の構成になっている。しかし、多くのすばらしい映画がそうであるように、ストーリーの中には手の届かない夢の実現というサブストーリーが展開されている。抽象的な夢が具体化する時、それは大概陳腐なものに成り果ててしまうが、途方もない夢を実現してしまった時に人がどうなるか。映画の最後にちらりと出てくるシーンはあらためて生きるということを考え直すきっかけになるように思われる。

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